自由貿易の問題点

ソ連崩壊やアメリカの衰退を予言したフランスの人口統計学者、エマニュエル・トッド氏が、自由貿易の問題点を非常にわかりやすく指摘しているので引用。

 

◆未来への提言:エマニュエル・トッド
http://blog.goo.ne.jp/11hadley_wood/e/caa87ef25fa724820b0457de969fe487

 

自由貿易の問題点】
 アメリカ発の経済危機が明らかにしたのは、これが自由貿易のなれの果てだということだ。自由貿易という言葉はとても美しく響く。何しろ「自由」という単 語が使われているから。もちろん自由貿易有益なものになり得る。しかし今はすべての人を巻き込む激しいビジネス競争となっている。保護主義は平和だと いっても信じてもらえないかもしれないが、自由貿易は戦争だということは信じてもらえるはずだ。

 

 企業は外国市場向けの生産を始めた途端、労働者の賃金を単なるコストだと考える。従来の内需を中心とする経済では、企業は賃金の引き上げが生産性を高め、利潤を生むことを知っていた。輸出においては、賃金は単なるコストとなり、絶対的な競争原理のもと、コストの引き下げ圧力がかかる。もし世界中の企業が賃金をただのコストでしかないと考え抑制したら、世界規模で需要不足が起きるのは明らかだ。

 

 現在アメリカの消費はすさまじく、アメリカは8,000億ドルの貿易赤字を抱えている。不道徳かもしれないが、これが地球規模の需要を生んでいたのだ。アメリカは消費し続けることで、自滅するだろうが役には立つ。
 産業と経済の復興には需要の喚起が必要だ。ヨーロッパの場合は、保護主義を基本とするブロック経済に戻るべきだと、私は考える。保護主義という言葉がタ ブーなのは私もよく知っている。しかし、もしヨーロッパが地元贔屓に戻れば、賃金を回復し、グローバルな需要を増やすことにもつながる。

 保護主義の危険性については、フランスでも常に議論を呼んでいる。保護主義は外国人の排斥や外国敵視につながるという意見は確かにある。しかし、私の言う保護主義は全くそうではない。あくまでも需要を増やし、貿易を健全な形に再活性化するツールに過ぎないのだ。むしろ自由貿易は、世界の工場中国を破滅へ と向かわせている。例え保護主義を導入しなくても、欧米の需要が崩壊すれば中国も崩壊する。

 

世界的な需給バランスの是正について考えた場合、日本は貿易に特化するのではなく、内需中心の経済を作っていくべきというのが私の認識。

だが、安倍総理は明らかにグローバル競争力の強化を目指しており、あまつさえ労働者の規制を「岩盤規制」と名付け自らがドリルとなって打ち破るとダボス会議で公言している男だ。

しかし、上記にもある通り、日本の企業の多くが賃金をコストと考え実質賃金の抑制に走れば国内の需要はさらに困窮化する。需要が困窮すれば、デフレギャップはさらに拡大し、デフレの悪化を招く。これが日本における自由貿易の問題点だ。

安倍内閣は発足以来、デフレからの脱却を目指すと公言しているが、実質賃金を下げるような政策は明らかにデフレを悪化させる。逆にデフレから脱却しようとし需要を増やすため実質賃金を上昇させれば、もちろん国際競争力は低下する。つまり、「グローバル競争力の強化」と「デフレからの脱却」は両立し得ないのだ。