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ジセダイの逸材文字起こし~

 

柴山桂太x飯田泰之 ピケティ旋風から考える格差と未来 - ニコニコビューア

トマピケティの出した21世紀の資本論に対する柴山桂太の認識

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※一部加筆修正

~21世紀の資本論について

柴山「21世紀の資本論はすごく分厚い本で、日本でもたぶん評判になると思うんですが、基本的には専門書でして、特にこの本は歴史のことについてすごくたくさん書いてあって、ピケティはこれまで曖昧に語られてきた歴史の問題にデータを緻密に積み上げていって、より歴史を分析しやすくする、そういった本なので、多分多くの読者は読むと途中で『なんだこれは?』となるんじゃないのかなと思うんですが、ただこの本がですね、アメリカで話題になったというのは大きな意味があると思うんです。

この本に何が書いてあるか大きく3つ言いますと、1つは300年間くらいの長期の格差や不平等の推移、それを明らかにした。それで見ますと、資本主義、産業革命以降、特に19世紀以降、お金持ちとそうでない人の格差、特に上位1%や10%、社会の百分位、十分位、上のほうの層の所得や富が一貫して増える、そういう傾向にあったんだと。19世紀にいたマルクスという経済思想家がいましたけど、彼の言ったことは事実としては間違ってなかったということが示されている。

2つ目に、そうは言っても日本でも30~40年ぐらい前、1970年ぐらいに1億総中流と言われた時代がありましたよね。日本の場合、戦後は経済は発展するんだけど比較的、中間層が分厚くなっていく。これは一体どう説明するんだ?という問題があって、ピケティは1940年代、戦後から1970年代の終わりぐらいまでの30年間は、本当に歴史上稀な時代だったと。これはですね、我々多くは戦後生まれだと思うんですが、(我々が)当たり前だと思っていたことが、資本主義の長い歴史から見ると実は、全然当たり前じゃなくて本当に奇跡のような、ごく特殊な条件が揃った時に成立したと。

3つ目は、それが終わった1980年代ぐらいから再び格差が拡大する傾向にあって、このままいくと21世紀は先ほど言った19世紀、戦前のような非常に巨大な格差社会になるだろうと予見した。で、評判になってるのは3番目なんですよね。このままいくと、物凄い格差がこれから出現するんじゃないか。これが今、アメリカの人々のリアリティに訴えるとこがあった。ということで話題になってるんだろうと思います。」

 

 

飯田の話し後

柴山「今の飯田さんの説明は『経済学』の議論としてはその通りなんですけど、ピケティは、ある意味では全く別の視点から格差の説明を持ってきて、それが何かというと、結局、その人が持ってる資産や資本というものが、利子を生んだり利益を生んでいくということに格差拡大の要因があると。

先ほど、資本主義が何かという問題ありました。これは、資本主義が何かを巡って長い論争があるんですが、文字通り「資本」の「主義」なんですよね。自由主義と言ったら自由を大事にする主義ですよね。資本主義というのは「資本」というものが、主役になる主義。これを肯定的に言うと、人々の持ってる財産を利用して富を増やすことができる自由主義社会で、人々が自由に取引をして経済が発展する、という意味で良い体制だということもできるし、逆に19世紀のマルクスなんかが指摘したのはその悪い面で、ということは資本を持っているものは富を増やすことができる。

逆に資本を持っていない、例えば、ピケティの本には、19世紀は人口の半分以上は資産をほとんど持っていなかったと。反対に19世紀のフランスの上位10%は、富の80%を専有すると。物凄い格差社会ですよね。で、その中で不動産を持っているとか、債権を持っているとか、何か財産を持っている人が財産を運用する、財産の収益で富を増やしていく。

そうするとピケティが言ってるのはですね、大体この300年間ぐらいで、ピケティは『資本の収益率』と言っていますけど、つまり財産が伸びる率のことですが、それが大体4%~5%だった。他方、労働者の賃金、国民所得の成長なんですが、これが平均すると1%~2%だった。これを100年、あるいは200年スパンで見ると物凄い格差になりますよね。ここに格差の原因があったんだとむしろ説明されるべきは戦後の30年間のほうなんです。この本は結構、そのことについて詳しく書いていて、『じゃあ何でこの30年間において平等化が起こったか』についていろいろ書いている。そういうことなんですね。」

 

~アメリカで大きな反響を起こした意味について、どうお考えですか?

柴山「まあ、特にリーマン・ショック以降ですねえ、資本主義に対する不満というよりは、少なくとも1980年代ぐらいから続いてきた新自由主義レーガノミクスサッチャーリズムに代表される・・・。例えば、レーガンなんか富裕層減税を行ったり、これまではどちらかというと福祉国家ですよね、お金持ちからたくさん税金をとって福祉を支えるというのが、先進国で共通してあったんですが、1980年代ぐらいからアメリカ、イギリスを中心に福祉国家は非常に非効率で、経済成長ができないし、しかも生活保護受給者のために富裕層がたくさん税金を払う、これはおかしいじゃないかということで次第にそれを解消、修正する動きが出てきた。

その中で、データを見ても1980年代ぐらいから明らかに富裕層の富が増えてるんですよね。これは、政策的に実行されたことなんですよ。また、同時にそのことの何が問題なんだという議論もあった。というのは、先ほど飯田さんもおっしゃいましたけど、すごいアイディアを持った人がですね、自分のリスクを取ってお金を儲けてたくさん富を得る。それで何の問題もないじゃないか。むしろ、問題は働かないにも関わらず生活保護を受けている人が問題だ。これがまあ、80年代以降の基本的な流れだったですね。ところが、それで30年ぐらいずっときたんですけども、リーマン・ショックが起こって、金融を中心に経済が混乱して、かつその後、先進国はどこもそうですがアメリカを中心に経済成長率がどこも落ちてしまって、かつての日本のように低成長が続くんじゃないかとなってきた。同時に格差も例えば、ピケティのデータによると、所得の上位10%の人が、アメリカだと50%ぐらいの富を取ってしまっていると。ちなみにアメリカだと上位10%というと金額にすると25万ドルですから2500万円ぐらいの人が国民所得の半分を取っている。逆に真ん中以下の人は所得が全く増えない。むしろ、下がってきている。この状況に対して、やっぱり何とかするべきなんじゃないかという声が上がり始めてきた、ということだと思います。」

 

~日本の格差の現状についてどうお考えですか?

柴山「格差社会というのは、日本で言う時と米国で言う時とは、イメージがちょっと違うと思うんですね。アメリカではやはり1%対99%。最近の研究では、1%の中のさらに1%、0.01%の富の伸びが凄まじいんですよね。これはスーパーリッチと呼ばれてます。大体、年間の所得は21億を超えるような人たちですね。この人達が社会的に存在感を増していて、こういうごく一握りの超富裕層が出てきた。それに対してそれ以外の人達との対立、これが問題になっているんです。ピケティの議論はまさにそういうのを念頭に置いているんですね。ピケティはだから、ある程度平等化を実現するためには、お金持ちに対する増税をですね、この場合、相続税ですとか所得税、あるいは資産に対する課税なんかを強化するべきだと言っている。

それに対して、日本の問題は今、飯田さんがおっしゃったように、日本でもですね、1%の(富の)占有率はそれほど上がってないんですが、10%は緩やかに上がっているんですね。確かにその意味では富裕層がより富裕になるという構図もあるんだけどそれ以上に日本人が格差の問題を論じるときには、正社員と非正規社員ですよね。今、非正規は35%。ということは、平均的なサラリーマンになれる人と、なれない若者が出てきたと。これはあまりに酷じゃないかということで、ここの差が問題になっているというわけです。」

 

~ピケティの資産などに対する課税を強化すべきという意見に対して柴山さんも同じようなお考えですか?

柴山「今、日本は正規と非正規の問題があってそれが格差社会だって言うことなんだけども、ピケティのこの本が日本にとって持つインパクトは、ピケティの議論を応用すると、いずれ日本もアメリカのような社会になりますよっていうことなんです。それは、ピケティ自身も何かの雑誌のインタビューでそう言ってましたけども、さっきの話ですが、そもそもどうして1940年代から1970年代までは、世界的な格差が縮小したのかという話をしたほうが良いと思うんですけど、ピケティの説明は大きく分けて3つあるんです。

1つ目は戦争があったということですね。戦争ってお金持ちの没落を招くんですよ。インフレが起こったり、資産もお金持ちがお金に困ると資産を売ったりしますんで、没落する。日本でも、戦後、太宰治の小説なんか読むと戦前の金持ちが戦争の混乱で没落する人の話とか出てきますよね。そういうのが世界各国で起こったというのが1つ。

2つ目に、戦後は高度成長期だったので、お金持ちの資産の収益の伸び率よりも普通の人々の所得の上昇率が一時的に逆転したんですね。こういう非常に奇跡的なことが起こった。

3つ目は税制ですね。特にこれは先進国どこでも1910年代ぐらいから相続税所得税が導入されて、戦争期というのは総力戦ですから、お金持ちに対してより負担(してもらう)。平時、何もない時はお金持ちの増税って難しいんですよね。お金持ちの人は、物凄く政治的なパワーを持っていますから、簡単に増税は飲ませられない。戦争期は飲ませられるので、この本にも出てきますが、アメリカは所得税最高税率で90%とか凄まじい増税を行った。だけど、税制が80年代辺りから変わっていきまして、お金持ちにそういう高い税金を課すという制度が無くなっていった。この3つですよね。

それで今後の世界を考えると、今後戦争に期待することはできない。2つ目に高度成長。仮にピケティの議論が正しいとして4~5%の資本の収益率を上回る、日本経済が今後10年から20年に渡ってGDPの成長が4~5%になるというのは、まああり得ないですよね。後は税制ですよね。なので、ピケティの議論を応用する限り、税制をですね、所得の上位層に対して強い税金を課すということをしないと、おそらく格差は再び広がっていくと。今でこそ日本は、平等社会ですけど、戦前は凄く不平等な社会でしたから、そちらに戻っていくんではないかと。21世紀という長いスパンでみると、今のアメリカで起きていることは、他山の石ではないということになるんではないかということです。」

 

~成長と分配の観点から日本の今後の経済政策の方向性というのはどうお考えですか?

柴山「ピケティの本は、成長について論じてるわけではないんですね。成長には2種類あって、格差拡大型の成長と格差縮小型の成長があるという話なんですよ。さっき言ったように資本主義は基本的には、格差拡大型の成長なんですね。彼の議論だと。ただ、戦後は、30年間という極稀な時代は格差縮小型だったけれども、それは非常に特殊な時代であって、21世紀にはピケティの予測では、1%~2%の成長はするだろうと。それは、成熟社会であるとはいえ資本主義である以上、そしていろんなものが効率的に運用される以上、ある程度の成長はするだろうけども、ただそれを上回って格差が開いてしまうと。なので、経済成長を促進させつつ、かつ格差の是正に本気で取り組まないとまずいことになりますよということです。

で、それに関して言うと私は、そのピケティの議論は当たっているんではないかと思うこともあってですね、というのは、この間、先進国のいわゆる不況対策を見ると、金融政策が強いですよね。今の状況を見るとアメリカが典型ですけども、やはり物価ですよね。モノの値段はそんなに上がらないけど、資産はすぐ反応して株なんかすぐ上がるわけですよ。ピケティ的に言えばですね、これこそまさに格差を拡大してしまっている。私の意見を言えば、金融政策は重要なんです。だけど、金融政策は一方で格差を拡大させる可能性があるわけで、格差対策というのもちゃんとやらないと、ただ景気を良くするためだけに金融政策をワッとやる、例えば不況になるとお金を市中に流す、だけだとその富がですね、お金持ちの方により配分されてしまうという可能性があるので、そこはまた別のケアが必要だと、いう風に理解できると思います。」

 

柴山「成長の議論と格差是正の議論は基本的には別であるべきなんだけど、今後の資本主義においては成長のほうも大きな問題だと思うんですよね。やはり、成熟した資本主義は収益の機会は無くなっていくと。直近の現在で言うと、リーマン・ショック後、先進国はどこも何に投資したら良いかよくわからないという状況になっている。ましてや、製造業というのはですね、大型の設備投資が必要でお金が動くので成長する。今の途上国なんかがそうですね。戦後の日本もそうです。だけど段々、経済の主役がですね、製造業からサービス業になっていくとですね、どうしても成長するスピードは落ちてくるわけですね。その中で、ある程度の低成長というのは、致し方ないと言いますか。もちろん、長い目で見ればわかりません。また、何か革命的なアイディアが出てきて、産業構造が変わるかもしれませんが、現状20~30年くらいで見ると、かなりの低成長を甘受しなければならないという状況になってるわけです。私はですね、よく『成長は必要ですか?』と聞かれるんですが、確かにこれほどモノが豊かになって、そんな昔みたいに成長、成長言わんでも良いだろという意見には一理もニ理もある。

だけど、ある程度の成長をしないとまずいということは色々あるんですね。政治体制が持たないとかですね、隣国との競争に負けてしまうとか社会保障の仕組みが維持できない。その意味では何とか成長をしていかなければいけない。これだけでも相当大変なことなんですよね。その意味で成長しながら、格差を是正していくというのは21世紀の課題として物凄く大きな課題としてあるという風に思いますね。」

 

~資本主義の未来に対してどうお考えですか?

柴山「それに対する答えになるかわからないですけども、私はですね、ピケティのこの本が翻訳されたことの意味というのは、たしかに資本主義って問題だらけなんだけど、100年とか長期のスパンで見ると、処方箋が何が必要かということ以上にまず、我々がどういう社会に生きているかの認識を深くすることが重要だろうと思うんですね。格差を縮小するということは、政府だけの仕事というわけでもないんですよ。例えば、何でアメリカで格差が拡大してるかというと、CEO、社長さんが平均従業員の300倍ぐらい金を貰っている。日本では、10倍とかですよね。やはり、民間の中に格差を縮小するような努力が格差を止めてる面があると思うんですね。もちろん、税制は重要です。だけど、民間の側にですね、このまま行ったらどうも資本主義というのは、格差拡大しちゃうらしいと。じゃあ、民間の方でね、会社の方で給料体系を見直そうとか、そう言った民間の努力や知恵というものが、資本主義をより安定させるという面があるので、そういう点を私は強調したいと思いますね。」