あまりにも的が外れたピケティ批判


ピケティさんの教え、日本への処方箋に違和感(核心) :日本経済新聞

 

まあ、ちょっとした訓練にはなるので、間違い探しを。

「ひどい状態にある財政を再建しながら格差を縮める難しさがある。」

OECDの調査によると、格差を是正すると経済は成長する。*1 低所得者層を減らし中間層を増やせば、経済成長するし、当然、税収も増える。

 

「高所得層だけを増税しても税収の増加は限られ、貧困対策や社会保障に回す余裕もあまり出ない。」

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出典:トマ・ピケティ『21世紀の資本』は貧困増大と暴力的な格差の土台築くアベノミクスに警鐘を鳴らしている(井上伸) - 個人 - Yahoo!ニュース

どう考えても、高所得者の税率を増やしたほうが良いと思いますが。

 

財政難の折に進んで公務員の賃上げをという意見には戸惑う。

公務員に関しては、確かに所得は高いが、人口あたりの数は少ない*2。災害国の日本において、有事の際、行政機能に支障をきたしてはいけないので、所得を抑制しつつ数を増やすというのであれば、賛成だが、ただ歳出を減らすためだけに公務員の所得を抑制するのは、経済にとって良くない影響が出るだろう。

 

厳しい歳出削減や消費増税なしに債務問題は解決しない。

 ピケティは、日本の財政難について、次のように述べている。

歳出だけを削減して、債務返済をする。その際に成長もインフレ率も非常に低いままということになりますと、50年、100年というような影響が出てくるということなので、本の中にも書きましたけれども、唯一挙げられるのは、19世紀の英国の例です。

まるまる一世紀掛かって、ようやく公的債務を返済しました。そのかなりの金額を国内の金利生活者に対する利払いに使ってしまって、教育に回すお金をどんどん減らしてきたということなので、日本にとっても、ユーロ圏にとっても、これはあまりいい解決法とは考えられません。

歴史を見て、今までの公的債務危機と呼ばれているものを、どういう風に対応してきたのかというのを学ぶことで、一番いいやり方というのを模索するのが重要だと思います。GDPの200%という公的債務水準になったのは、日本が初めてではありません。1945年のドイツやフランスでも、それぐらいありました。200%。しかし、これは今言ったとおり、債務のリストラクチャリングとインフレ誘導によって、あっという間に解消したわけです。

やはり成長に投資をし、教育に投資をし、次世代に投資をすることによって、公的債務を急激に減らしていく方法がいいと思います。

出典:トマ・ピケティ氏、「民主主義は闘争。誰もが関わらなければならない」と日本の若者にメッセージ

 

重い資産課税ともなれば資本は海外に逃げる。

 だから

富裕層の株「含み益」に課税、海外移住での税逃れ防止=政府税調 | Reuters

こういう話や

資産家は要注意 「海外に5000万円」なら申告義務 :Money&Investment :コラム :マネー :日本経済新聞

こういうことをやってる。

 

 所得の底上げにつながる政策も急ぐべき

それに反対はしないが、公務員の給料を下げると所得は底下げされますが、大丈夫ですか?(笑)

アメリカが戦後、最高税率が高かった理由

パリ白熱教室の第6回でトマ・ピケティ教授はアメリカが戦後、日本やドイツに高い税率を敷いた理由について以下のように述べている。

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様々な国の長い税制の歴史からは,学ぶべきことが沢山ある。ときには,驚くべきこともある。

ドイツを例に取れば,1回だけだが,所得に対して相続税とまったく同じ率の90%という最高税率がかけられたことがある。それは,1946年から1948年までの時期で,アメリカ人たちがドイツの税制を作った。当時ドイツは連合軍の占領下にあって,事実上アメリカに支配されていた。これは日本も同じだ。

ドイツと日本が,1950年代に財政主権を回復してから税率は下げられ50%という当時合理的と思われた税率に改められた。ドイツはさすがに90%というとんでもない税率は,アメリカ流の途方もない理想であり,とても受け入れられないと考えた。

当時は何でもアメリカ風という時代だったが,アメリカはドイツと日本を懲らしめるために,このような税制を布いたのではない。それは,アメリカ自身が自国で採用していた制度だった。

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出典:ピケティ『21世紀の資本』オンラインページ

懲罰的な意味では決してなく,あくまで近代化のための政策の一環だった。

民主的な制度と財政制度を結びつけ,所得と富の極端な集中によって,民主主義が金権政治に陥るのを防ぐためだった。

これは当時の実際の通念であり,私が言い出したことではない。我々の歴史的遺産の1つだ。風変わりで,まったくバカげていると思われるかも知れないが,これは,20世紀の紛れもない事実だ。

理解しておくべき大切なことは,こうした税制をめぐる,政策や制度の大きな変化は第1次世界大戦とその後の世界恐慌がもたらした大きなショックに対する反作用として生まれたものだ。

とくにアメリカ人が世界恐慌から受けたトラウマには凄まじいものがあった。それは無理もないことで,1920年代の所得格差の拡大によって大企業の一部の人々に富が集中し,それが同時に世界恐慌をもたらした。その結果,第2次世界大戦にまで至ってしまったと,アメリカ人は考えたのだ。

人々は,こうした金融システムや経済システムが破局,世界恐慌を引き起こしたことに,大いに狼狽した。

忘れないでほしいのは,世界恐慌という強いショックの反作用として,高い税率を制定したアメリカの精神だ。

富裕層による資本主義の私物化が,行き過ぎた不平等をもたらし,政治経済の不安定を生みだすという認識だ。
つまり,政策自体がショックの一部だった。

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引用終わり

 

極端な格差社会の問題の1つとして、格差が社会的流動性を阻害するということがある。ウィルキンソン&ピケットは著書『平等社会』の中で、所得格差と社会的流動性は反比例することを明らかにした*1

つまり、富裕層の子供は金持ちに、貧困層の子供は、貧乏のままという世襲社会化である。所得格差がフェアな競争環境を阻害し、職業選択の自由が失われたり、能力主義の理念とは全く異なるものになってしまっている。

もう1つが上記でピケティが言っている極端な富の集中が金権政治を生み、民主主義を阻害するということである。これは、アメリカではもう当然のように起こっているし、日本でも政治とカネの問題は昨今、話題に事欠かない。

よく、金持ちに金を持たせておけば、ビジネスために金を使うのでより効率的だというが、歴史を見る限りそんなことにはなっていない。むしろ、ピケティの言うように、富が極端に集中することで、政治は金権化、腐敗していった。金持ちは当然、国全体が得をするのではなく、自分が得をするという選択を取るため、そのようになっていく。

これに関しては、制度で対応すれば良いのではないかとも思うが、それだけだと政治家を使って制度を変更すれば良いだけなので、対応にならない。

こうなると税率の制度をピケティの言うように累進的にするには、世論か企業献金を受けていない共産党か官僚ぐらいしか無理だろう。

しかし、官僚は例えば財務省はあろうことか逆進性のある消費税を上げることに躍起になっている。つまり、庶民の生活を守ろうなどという考えは微塵もない。

共産党を全面的に支持するのは、安全保障の観点から無理。となるとやっぱり世論に訴えていくしかないということか。

国民負担率


平成27年度の国民負担率を公表します : 財務省

 

財務省が平成27年度の国民負担率を公表した。

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出典:国民負担率の国際比較

 

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出典:国民負担率の国際比較(OECD加盟33ヵ国)

 

これを見ると日本の国民負担率は低いと判断できるので、消費税を10%にしようという意見が出てくると思われるが、いくつか異論がある。

1つ目に、我が国では、特にここ20年ほど新自由主義的な政策が実行されており、小さな政府を目指すとされてきた。したがって、引き続き小さな政府を目指すのであれば、この国民負担率を維持ないし、もっと下げなければならない。小さな政府を目指すことと、消費税を10%にして国民負担率を上げることは、矛盾する。

2つ目に、我が国の税収に占める消費税収の割合は、ヨーロッパと比較して低いわけではない。

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出典:埼玉県保険医協会

3つ目に、国民所得が年々低下している中で、消費税のような逆進性のある税率を上げれば、低中所得者層に打撃となり、経済は低迷する。

福祉中負担にするというなら、別に反対はしないが、だからといって単純に「消費税を上げよう!」とはならない。

 

参考

http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h19pdf/20074007.pdf

国民負担率(こくみんふたんりつ)とは - コトバンク

サラリーマン平均年収の推移(平成25年)-年収ラボ

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