規制緩和の失敗例~高速バス事業編
発端
元々高速バス事業は、輸送における安全の重要性等の観点から、需給調整規制が行われてきた。しかし、政府の規制緩和の推進の方針に基づき、2000年(平成12年)、貸切バスにおいて、2002年(平成14年)、乗合バスにおいて、それぞれ需給調整規制の廃止が行われ、乗合バス事業、貸切バス事業ともに免許制から一定の要件を満たした事業者であれば誰でも参入できる事業許可制へと切り替えられた。
規制緩和により高速ツアーバスが発展
規制緩和により、安い実勢運賃で一年間を通して貸切バス車両が調達できるようになったなどの理由から、高速ツアーバスの採算性が向上し急速に発展。高速ツアーバスの利用者は、2005年(平成17年)には約21万人だったが、国の規制緩和により新規参入事業者が増え、2010年(平成22年)には約600万人に激増。その反面、貸切バス事業全体で見ると過当競争となっており、実働日車当たりの営業収入が7割近くに減少。1999年(平成11年)には80519円だったのが、2009年(平成21年)に64246円にまで下がった。
高速乗合バスと高速ツアーバスとの違い
高速乗合バス
路線バスの一種。道路運送法に基づき路線バス会社が企画・販売・運行する。契約の相手方である路線バス会社がバス運行の安全確保に責任を負う。
高速ツアーバス
旅行商品の一種。旅行業法に基づき旅行会社が企画・実施し、貸切バス会社が運行する。利用者の契約の相手方である旅行会社は、バス会社ではないのでバス運行の安全確保に直接の責任を負わない。高速ツアーバスは乗合場所が分かりにくいこともある。*1
規制緩和後・・・
競争が激化し運転手の過重労働などにより、高速ツアーバスにおける安全性が低下。27人の死傷者を出した吹田スキーバス事故*2や7人が死亡、39人が重軽傷を負った関越自動車道高速バス居眠り運転事故*3が発生。
また、交通事故総合分析センターの事業用自動車の交通事故統計(平成19年版)によると規制緩和後の平成12年以降、乗合バス、貸切バスともに事故が増加している。
出典:www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03analysis/resourse/data/h19_toukei.pdf#page=18
これらを受け国土交通省は乗務員の運転時間等の基準・指針等の見直しなど安全基準を修正。また高速ツアーバスを廃止。 それに変わり2013年8月から、新高速乗合バス制度を開始した。
まとめ
高速バスの規制緩和によって、結局何を得て何を失ったのか
・高速ツアーバスというビジネスモデルが出現し、安価な高速バスサービスを実現させた。
・しかし、行き過ぎた競争の激化が貸切バス事業者の収益を悪化させ、高速バスサービスにおける安全性を低下させた。
・結果として、過重労働による居眠り運転などが原因で、大事故の発生に加え、事故件数自体も増加。貴重な人命を失った。
参考資料
高速ツアーバス問題について
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2012pdf/20120904073.pdf